源義経は名将か?否(その6)一谷合戦―歴史雑感〔1〕―

(2)一谷合戦〈3〉『吾妻鏡』・『平家物語』による三草山合戦

 『吾妻鏡』・『平家物語』諸本による一谷合戦の経過を見てみましょう。

1月29日、源範頼・義経の両将は院参し、次いで出陣しました。生田森を目指す大手軍は大将軍が範頼で5万6千騎、一谷を目指す搦手軍は大将軍が義経で1万騎(『吾妻鏡』では2万騎)です。これに対して、平氏軍は、東に生田森、西に一谷に木戸口を構え、海から山際にかけて防御施設を構築しました。平宗盛を総帥に福原を中心に東西約10kmに10万騎(『吾妻鏡』では数万騎)を配しました。

大手軍は、2月4日に出京し、5日には摂津の武庫川東岸の昆陽野(伊丹市昆陽辺で、生田森まで約20㎞)に布陣しました。一方、搦手軍は同日に出立し、丹波路(山陰道)から、三草山(加東郡社町)の東口の小野原(篠山市小野原)に、2日の旅程を1日で同夜に到達しました。

もちろん、ここに示した両軍の兵数は実数ではなく誇大化されたものといってよいでしょう。しかし、全体的傾向は表していると考えます。すなわち、第1に、源氏軍総数6万6千対平氏軍10万騎ということは、必ずしも源氏軍が優勢ではなかったことです。むしろ平氏軍が優勢であったといってよいでしょう。第2に、範頼軍と義経軍の兵数比を考えると、約5対1弱となり、源氏軍の圧倒的多数が大手軍に所属することです。大手軍が主攻で、搦手軍が助攻であることは明白です。

搦手軍は山中を長距離行軍しなければなりませんから、当然ながらその軍装は大手軍に比してより軽装であり、ひいては戦闘力において劣ると考えます。それらのことから考えられる源氏軍の戦術は、大手軍をもって生田森の平氏軍防禦線の突破を図り、搦手軍は長躯機動して、平氏軍の西国への連絡口である一谷を遮断封鎖すると、いったものと考察できます。あくまでも大手軍が平氏軍を破砕する、正面突破策です。しかし、この戦術では敵の最大抵抗線を攻めることとなり、平氏軍のほうが多数という状況を考えると、その成功は困難なことと考えることができます。そこから、鵯越が勝利に決定的役割を果たしたとの評価が生まれるのです。この点に関しては後であらためて考察します。

平氏軍は義経軍の丹波より一谷への機動を知り、平資盛ら7千騎を派遣し三草山西口に防衛線を張ります。これを知った義経は、3里の山中を越えて夜襲をかけて、5日未明に平氏軍を敗走させました。資盛は福原に戻らずに、淡路へと逃れます。弟師盛が福原に戻り敗退を告げます。これが一谷の前哨戦の三草山合戦です。見事な夜襲の成功です。

夜襲が成功するためには、味方の連繋とともに、進撃路順の正確さが欠かせません。正確な地図のない時代ですから、このためには現地の地理に精通した者の存在が不可欠です。この点、義経以下の東国武士には土地勘はありませんから落第です。一般に源氏軍=東国武士と考えられてきましたが、実はその過半は畿内を中心とした近国の武士たちです(元木泰雄氏「頼朝軍の上洛」『中世公武権力の構造と展開』吉川弘文館参照)。同氏は、『玉葉』で述べる源氏軍の大江山在陣は摂津源氏の多田行綱との合流のためと、考察しています。この点は私も賛成します。したがって、義経軍に摂津の土地勘を持った武士がいたのは当然なことで、これが夜襲の成功の前提条件になります。『吾妻鏡』や『平家物語』は夜襲が東国武士の田代信綱・土肥実平の献策と記しています。しかし、真の献策者は畿内武士と考えるのが至当ではないでしょうか。それにしても、これを受け入れた義経には将才があったことになります。

さらにいうならば、この義経軍の一谷への進出は丹波から摂津へかけての交通路に精通していなければ実行しえないものです。同時にこの行軍はスピードを要求されますから、行路における協力者も必要でしょう。現地でこれらを得ることは保証されているわけではないのです。したがって、本作戦は東国武士だけで実行できるものではなく、畿内武士とりわけ摂津武士の参画なくして実行できないといえます。すなわち、源氏軍の本作戦には摂津武士が参画していたと考えるのです。

(続く)

(2004.12.29)

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kanazawa45 について

中国に長年にわたり在住中で、現在、2001年秋より、四川省成都市の西南交通大学外国語学院日語系で、教鞭を執っています。 専門は日本中世史(鎌倉)で、歴史関係と中国関係(成都を中心に)のことを主としていきます。
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源義経は名将か?否(その6)一谷合戦―歴史雑感〔1〕― への2件のフィードバック

  1. Seiji より:

    正大先生 こんにちは~ Ⅱ またまた おじゃまします 来年は NHKの大河が “ 義経 ”です 義経タッキー 弁慶がマツケンこと 松平健 とりあえず 日本人好みの 判官びいきに のっとった内容です ご不満もあると思いますが 中国でも 視れるのでしょーか わたくしはと申しますと 静御前役の 石原さとみちゃんがスキなので それを楽しみに しようかな と云ったところ 正大先生も お風邪など召しませぬよーに 良いお年を お迎えください  でわ でわ

  2. 正大 より:

    >中国でも 視れるのでしょーかお答えします。NHKワールドテレビ(衛星放送)が受信できれば、日曜夜に見れます。しかし、中国では、海外の衛星放送の受信は公安の許可が要りますから、事実上個人では無理です。許可の出る外国人向けホテルやマションンなどでしか見ることはできません。残念ながら、本校では見られません。

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