源義経は名将か?否(その1)―歴史雑感〔1〕―

 明年、2005年のNHK大河ドラマは「源義経」です。そこで、義経の評価に関して、若干の私見を述べたいと思います。

治承寿永内乱での活躍にもかかわらず、異母兄頼朝と対立して奥州平泉で悲劇の最後を遂げたことで、義経は中世以来現在にいたるまで悲劇の英雄として大衆の人気を博しています。それは、『義経記』があっても、『頼朝記』がないことでも明らかです。

とりわけ、故司馬遼太郎氏が、日本では例外ともいえる騎兵戦術の活用の才があり、天才的武将と評価していることに代表されるように、義経が名将であることは定説化しています。ドラマでもそう描かれ、一の谷合戦はそのハイライトになるでしょう。

しかしそうでしょうか。名将とはなんでしょうか。どう定義されるべきでしょうか。「戦(いくさ)」に強い。普通はそう考えるでしょう。では「戦」とはなんですか。複数の国が参加し千万人に達する兵力が投入された、第2次世界大戦もあれば、隣りあった家が争う数人規模のものもあります。「戦」といっても千差万別なのです。したがって、「戦」に強いといっても如何なるレベルの「戦」であるかが明らかにならなければなりません。

あらためて治承寿永内乱における義経の立場を考えてみましょう。周知のように、東国の武士に担がれ伊豆に挙兵した異母兄頼朝は対平氏戦において自身では出陣せず、おのれと主従関係にある東国武士を主力として西国に派遣しました。その西国遠征軍の最高司令官が義経なのです。当然のことながら、指揮下にある東国武士はそのほとんどとが彼と主従関係になく、兄頼朝の預けたものです。したがって、義経は頼朝代理として出陣している以上、兄頼朝の代弁者であり、ひいては頼朝が東国武士に担がれている以上、その代弁者でもあります。そのためにこそ義経は最高司令官でありえるのです。

義経の立場が明らかになれば、その評価において、その立場において何をなさなければいけなかったことから判断を下すのが当然となります。

頼朝、ひいては東国武士は何ゆえに、反乱に立ち上がったのでしょうか。彼らの目的はなんでしょうか。これに関しては歴史研究上からいえば、かならずしも一つの見解に集約されるものではなく、異なる意見があります。むしろ複合した目的があったといってもいいでしょう。この点を論じるとそれだけで大部の論文ができますので、ここでは論証を抜きに簡潔な結論のみを示します。「国は国司に随ひ、庄は預所に召し使はれ」(『平家物語』巻第四)と表現されているように、従前の京都(公家)に従属した地位を脱却しておのが自立を果たさんとするものです。平将門の夢はそのための最終地点たりえたでしょう。近来の歴史研究の成果からいえば、武士の自力救済原理の確立です。もちろん、これのみでは武士間の紛争をとめることできないですから、武家の棟梁がその調停者の役割を果すことになります。頼朝を担いだ東国武士は、彼にその役割を求め、かつ自力救済原理にもとづく京都に自立した権力を打ち立てんと欲したのです。むろんそれは願望であって、実際の歴史の動きの中で妥協はありえますが。

(続く)

(2004.12.01)

 

 

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kanazawa45 について

中国に長年にわたり在住中で、現在、2001年秋より、四川省成都市の西南交通大学外国語学院日語系で、教鞭を執っています。 専門は日本中世史(鎌倉)で、歴史関係と中国関係(成都を中心に)のことを主としていきます。
カテゴリー: 日本中世史(軍事) パーマリンク

源義経は名将か?否(その1)―歴史雑感〔1〕― への1件のフィードバック

  1. Seiji より:

     金澤先生 今晩は 楽しみに 待ってました いきなり本題ですね 義経は名将か と問われれば 戦術指揮官として非常に優秀 天才的な名将と称しても 過言ではないでしょう 義経が平家に勝った 「一の谷」「屋島」「壇ノ浦」の戦いは 義経の 奇襲と云う 戦術指揮なくしては 絶対勝てなかったでしょう 「一の谷」の あの 絶対有利な態勢から 脆くも崩れ去った 平家を見た 中立派の武士団が なだれをうって源氏方に糾合できた功績は 無視できません。 しかし 天才的戦術指揮官でも 頼朝の戦略を 理解できなかったのは 不幸なことですケド

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